喪失
数日後、ポストを覗いたら封筒が入っていた。



「春次郎さん!!」



私は手紙を胸に抱いて、ベッドに背中からダイブする。

脚をバタバタさせながら、待ちきれずに封を開けた。



中から、綺麗な写真がたくさん出てきて、びっくりする。





すみれへ


元気にしてる?

僕はあの後、風邪を引いてしまいました。

さすがに、草原は寒すぎたね。

すみれにも風邪を引かせてしまったんじゃないかと心配しています。


風邪はまだ治らなくて、ずっと熱が続いてる。

だけど、寝てばかりいるのもよくないので、気分転換のためにもう一度あの草原に行ってきました。

すみれは、夜のあの場所しか知らないから。

暮れ方の、僕がとても綺麗だと思う時間帯に、写真を撮りました。

それが同封した、草原と空の写真です。

綺麗でしょ?


面と向かっては言えなかったけど。

すみれは、僕が想像していたよりずっと、可愛らしい女性でした。小っちゃいし。

目はくりっとしていて、リスみたいだし。

どんなことにも、素直に感動する心を持っている、素敵な人だということも分かりました。

僕は、また君に会いたい。

この間も言ったけど、すみれをずっと待ってる。

早く風邪を治して、またサックスを吹いて、君を待っています。

バイト、頑張って!


春次郎





「可愛らしいだって!!!きゃっ!!!」



誰も聞いていないけれど、自分の部屋で口に出してみる。

自分で言うと、恥ずかしいけど。

だけど、確かにそう書いてある。



「でも、風邪、大丈夫かな……。」



もう一週間以上寝込んでるんだ……。

私は、ピンピンしてるのに。

やっぱり、言葉に甘えて上着を取ってしまったのが、悪かったのだろうか。



「春次郎さん―――」



私も、すぐに返事を書こうと便箋を広げた。





春次郎さんへ


お手紙と写真、ありがとうございました。

夕方の草原、すごく綺麗ですね。

夜と早朝とは、また違った雰囲気でとても素敵です。

また行ってみたいなあ~!

連れていってください、春次郎さん。

なんて、図々しいですよね。


それより、風邪、大丈夫ですか?

そんなにずっと熱が続いているなんて、こじらせてしまったんじゃないですか?

やっぱりあの夜のせいですよね。

迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。

早く元気になってくださいね!


私も、春次郎さんのこと、心の底からかっこいいって思いました。

サックスを吹いてる春次郎さんはもちろんだけど、色んな事を知ってて。

春次郎さんと話していると、あなたの様々な世界が垣間見えて、とっても楽しいんです。

プリズムみたいに、光の当たる角度によって、色んな色を映してくれる、不思議な人だと思いました。

春次郎さんみたいな人に、私は会ったことがありません。


私も、また春次郎さんに会いたいです。

だから、頑張ってバイトしてます。

だけど、言われた通り授業は、さぼったりしていません。

安心してください。


では、本当にお大事に。

あったかくして、よく寝て、風邪を治してくださいね。



すみれ




考えた末に、大学の銀杏並木の写真を同封した。

今、紅葉が見ごろですごく綺麗なんだ。

写真の裏に、「この大学に通っています。」と書いた。


知ってほしかった。

私が知るばっかりじゃなくて。

私のことを、春次郎さんに―――


連絡先を訊けば済むことなのかもしれないけれど、そうしてしまったら何かが壊れてしまう気がして。

私と春次郎さんは、この時代に何故か手紙をやり取りしていた。

封筒の中に、自分の気持ちまで込められるような気がして。
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