喪失
外は、雪が舞っていた。
いつの間にか、春次郎さんとつないだ手。
その温かさに、寒さなんて忘れてしまう。
でも、時折彼が吐き出す苦しそうな息が、私の胸を詰まらせた。
「春次郎さん、風邪、まだ治らないの?」
「……うん。」
こんなに長引く風邪が、あるわけない。
そんなの分かってる。
すごく痩せてしまった彼が、普通の状態ではないということも。
でも彼は、まだ―――
「総合病院、行ってよ。」
「……うん。」
「うんじゃなくて……行ってよ!春次郎さん!!」
涙が止まらない。
春次郎さんは、ふいに立ち止まる。
目の前には、大きなクリスマスツリー。
「泣くなよ。」
私の頬の涙を、綺麗な指先で拭う彼。
「せっかくの、誕生日なんだからさ。」
そう言われて、やっと思い出した自分の誕生日。
でも、そんなことどうでもいいんだ。
今は、どうでもいいんだ―――
「誕生日、おめでとう。すみれ。」
春次郎さんは、優しく優しく笑って。
何かを差し出した。
「ネックレス。すみれに似合うと思って買ったんだ。」
そう言って、彼は私の後ろに回る。
首の後で金具を留めてくれた。
そして、私のセミロングの髪を持ち上げて。
「どう?」
見下ろすと、小さなすみれの花が、私の胸元で光っていた。
その微かな光が、涙に滲んでいく。
「……ありがとう。」
顔を上げると、涙がぽろりと零れる。
ああもう、泣いてばっかりだ、今日は。
「星空、見せられなくてごめんな。今日は雪だから。」
「……ううん。」
「だけど、この雪はきっと、神様が僕たちのために降らせてくれた、星の欠片なんだよ。」
「……うん。」
星の欠片が、私の髪にも、春次郎さんの髪にも積もる。
コートに落ちた欠片は、綺麗な結晶になって見える。
それも、私たちの温度でどんどん溶けて。
水になって、私の涙と混じる。
「春次郎さん、」
「すみれ、」
同時に口を開いた。
いいよ、と春次郎さんが譲ってくれたから。
私は、覚悟を決めて―――
「春次郎さん、私っ、」
「春次郎っっ!!!!!」
その時、私と彼の間に。
涙でぐちゃぐちゃの顔になった円花さんが、飛び込んできたんだ。
「春次郎!!!ばかっ!!!」
「円花……。」
「春次郎のばかっ!!!!……好き!大好き!!!」
私が言いたかった言葉を。
彼女は、私よりも先に言い切った。
「円花、僕は……、」
耐えられなかった。
やっぱり、ダメだった。
自分の気持ちとちゃんと向き合って。
円花さんの気持ちも、受け入れるはずだった。
でも、やっぱりだめだった。
円花さんの告白に、春次郎さんが答えるのを聴きたくなかった―――
「っ!!!!」
その時、ちょうどやってきたバス。
バス停はないけれど、私は思い切り手を上げて。
そのバスに、飛び乗った。
「すみれっ!!!!!」
春次郎さんが、大声を上げて。
走り出す。
でも、バスはそれよりずっと速くて―――
顔をしかめて、全速力で追いかけてくる春次郎さんは、急に倒れ込んだ。
「あっ、」
降りられなくて。
私はただ、遠ざかって行くその光景を、ドラマの一場面のように見ていた。
倒れたまま起き上がらない春次郎さんを、円花さんが泣きながら呼んでいる。
そして、バスは交差点を曲がって。
ついに彼の姿は、見えなくなった―――
いつの間にか、春次郎さんとつないだ手。
その温かさに、寒さなんて忘れてしまう。
でも、時折彼が吐き出す苦しそうな息が、私の胸を詰まらせた。
「春次郎さん、風邪、まだ治らないの?」
「……うん。」
こんなに長引く風邪が、あるわけない。
そんなの分かってる。
すごく痩せてしまった彼が、普通の状態ではないということも。
でも彼は、まだ―――
「総合病院、行ってよ。」
「……うん。」
「うんじゃなくて……行ってよ!春次郎さん!!」
涙が止まらない。
春次郎さんは、ふいに立ち止まる。
目の前には、大きなクリスマスツリー。
「泣くなよ。」
私の頬の涙を、綺麗な指先で拭う彼。
「せっかくの、誕生日なんだからさ。」
そう言われて、やっと思い出した自分の誕生日。
でも、そんなことどうでもいいんだ。
今は、どうでもいいんだ―――
「誕生日、おめでとう。すみれ。」
春次郎さんは、優しく優しく笑って。
何かを差し出した。
「ネックレス。すみれに似合うと思って買ったんだ。」
そう言って、彼は私の後ろに回る。
首の後で金具を留めてくれた。
そして、私のセミロングの髪を持ち上げて。
「どう?」
見下ろすと、小さなすみれの花が、私の胸元で光っていた。
その微かな光が、涙に滲んでいく。
「……ありがとう。」
顔を上げると、涙がぽろりと零れる。
ああもう、泣いてばっかりだ、今日は。
「星空、見せられなくてごめんな。今日は雪だから。」
「……ううん。」
「だけど、この雪はきっと、神様が僕たちのために降らせてくれた、星の欠片なんだよ。」
「……うん。」
星の欠片が、私の髪にも、春次郎さんの髪にも積もる。
コートに落ちた欠片は、綺麗な結晶になって見える。
それも、私たちの温度でどんどん溶けて。
水になって、私の涙と混じる。
「春次郎さん、」
「すみれ、」
同時に口を開いた。
いいよ、と春次郎さんが譲ってくれたから。
私は、覚悟を決めて―――
「春次郎さん、私っ、」
「春次郎っっ!!!!!」
その時、私と彼の間に。
涙でぐちゃぐちゃの顔になった円花さんが、飛び込んできたんだ。
「春次郎!!!ばかっ!!!」
「円花……。」
「春次郎のばかっ!!!!……好き!大好き!!!」
私が言いたかった言葉を。
彼女は、私よりも先に言い切った。
「円花、僕は……、」
耐えられなかった。
やっぱり、ダメだった。
自分の気持ちとちゃんと向き合って。
円花さんの気持ちも、受け入れるはずだった。
でも、やっぱりだめだった。
円花さんの告白に、春次郎さんが答えるのを聴きたくなかった―――
「っ!!!!」
その時、ちょうどやってきたバス。
バス停はないけれど、私は思い切り手を上げて。
そのバスに、飛び乗った。
「すみれっ!!!!!」
春次郎さんが、大声を上げて。
走り出す。
でも、バスはそれよりずっと速くて―――
顔をしかめて、全速力で追いかけてくる春次郎さんは、急に倒れ込んだ。
「あっ、」
降りられなくて。
私はただ、遠ざかって行くその光景を、ドラマの一場面のように見ていた。
倒れたまま起き上がらない春次郎さんを、円花さんが泣きながら呼んでいる。
そして、バスは交差点を曲がって。
ついに彼の姿は、見えなくなった―――