喪失
<カーテンコール>


~その後~


舞台に立った帰り道。

私は、ふと夜空を見上げた。


あれからずっと、この楽器と共に歩んできた。

私が、サックス奏者になるまでには、本当に長い道のりがあったんだ。

あの後、私は大学を中退し、音楽の専門学校へと通って。

両親の反対を受けたり、楽器が思うように上達しなかったりで、かなり苦労したけれど。

やっと今、こうして一人前のサックス奏者として、舞台に立てるまでになった。


私、春次郎さんの夢を、叶えられたかな。

これで、合ってるかな。


不安になるときは、いつも空を見上げる。

青色の名もなき星が、瞬いて私に教えてくれるから。

それでいいんだよ、って―――


ねえ、春次郎さん。

夢の中で、あの後、何て言おうとしたの?



「僕は、赤い星になって、燃え尽きるまでずっと……」



ずっと?

ずっと、私を愛してくれる?

見守っていて、くれる?


それなら、きっとまたすぐに会えるね。

星の寿命に比べたら、人間の寿命なんて。

ほんの星の瞬きにすぎないくらい、短いものだから。


だから、せめてこっちにいる間は。

私、頑張るよ。

春次郎さんの分も、大好きなサックスを吹くから。

どうか、聴いていてください―――


胸元に揺れるネックレスは、私の誕生日、あの悲しいクリスマスの日に。

彼が贈ってくれた、小さなすみれの形。






20歳の春、私は大切な人を喪失した。

それは、私の始まりだった。

あなたに会えたから、サックス奏者、宮迫すみれは生まれた……。


いつの日か。

私も、あなたの傍で、名もなき星になろう。

春次郎さん。


私の、大好きな人―――




*END*
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