真夜中のパレード
prologue
「天音(あまね)さん」
上条は優しく目を細め、細くやわらかい彼女の手を取った。
「あ……」
こういうことに慣れていないのだろう。
首筋に口づけを落とすと、その度に小さな肩がぴくりと小さく震える。
そんな仕草でさえも、愛おしいと思う。
上条は彼女の顔をじっと眺めた。
見ればみるほど、こんな美しい女性に出会ったことはないと思う。
華奢な腕も、思いの外豊かな胸も、すらりと長く伸びた真っ白な足も。
彼女を形作るすべてが愛しくて、触れるたびに
『自分などが彼女に触れてもいいのだろうか』
と葛藤が生まれるほどだった。
愛しくて、大切で。
自分が出来ることなら、何でもしたいと思った。
たとえ彼女がどんな秘密を抱えていようと。
彼女を抱くたび、そんなことはどうでもよくなった。
「……天音さん」
「はい」
言葉にしても、きっと無駄だ。
彼女の存在こそが、自分にとっては真実だったから。
だけど、愚かな自分はどうしても何度も彼女に確認したくなった。
それはまるで、神聖な祈りのように。
「お願いだから、どこにも行かないでください」
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