真夜中のパレード
透子がおどおどしていると、冬馬は近くにあったデパートをびしっと指し示した。
「俺は不細工な女と飯食う趣味なんてねーんだよ!
行け! ほら、早く!」
「……はい」
これが俗にいう俺様というやつだろうか。
冬馬は本当に、小さい頃から変わらない。
そう思いつつ駆け足でデパートのトイレに走った。
「おまたせ」
化粧を落とし終えてカフェの席につくと、冬馬はもうアボガドと鶏肉の丼ぶりを頬張っていた。
『擬態』を脱ぎ捨て美しくなった透子の顔をちらりと眺め、満足そうに頷いた。
「よし、よし。
俺と会う時はいつもそうしてろって言ってるだろ」
「だって、外でこの顔で歩きたくないし」
そう漏らすと、冬馬は鞄からぬるりと長い髪を取り出した。
「うわっ! なに、それ?」
恐る恐る受け取るとそれが女性用のかつらであることが分かった。
「ほら、長い髪。あると便利だって言ってただろ。
仕事で使わなくなったやつだけど、やるよ」
「わぁ、ありがとう!」
透子は瞳を輝かせ、さっそく頭に被ってみた。
店内が薄暗いので幸い周りの人間もその異様な光景に気づいた様子はない。
栗茶色のカツラは装着すると肩から十センチほど下の辺りまで伸びた。