真夜中のパレード
☆
間近でそうささやかれると、
上条の背中を甘い痺れのようなものが駆け抜けた。
視線をあげると、彼女と目が合う。
「さっきのこと、許してくれましたか?」
不安そうな彼女がかわいくて、
いたずらっぽく微笑み低い声でささやく。
「許しません」
「えっと……」
困ったように見上げられ、思わず笑ってしまいそうになった。
けれど堅い表情のままで彼女を見下ろす。
「それではどうすればいいでしょう?」
「私のことも、名前で呼んでください」
「えっ?」
彼女が戸惑う様子がかわいらしい。
待ち望んでいるのが伝わったのか、彼女も決意したようだった。
「……じゃあ」
小さな声で、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「直樹さん」
「はい」
精一杯頑張って、怒ったままの表情をたもつ。
「直樹さんっ!」
少し声を大きくして、もう一度名前を呼ぶ。
上条は満面の笑みを浮かべ、透子のまぶたにキスを落とした。
「ん……」
「はい。もう、許しました」
笑ったのを見て、透子の肩の力がふにゃっと抜けた。
「ずるい。最初から怒ってなかったんだぁ!」
上条もにっこりと微笑む。
「もうちょっと怒ったふりをして
天音さんの様子を見ていたかったんですけど、
かわいすぎて無理でした」
「ひどい」
顔を上に向け、またそっと唇を重ねる。
お互いの身体を抱きしめ、
溺れるように何度もキスをした。
底のない深い海に沈んでいくように、
どんどん彼女に夢中になる。
大切で、大切すぎて。
少し触れることさえもためらってしまう。
ずっと彼女の側にいたい。
心からそう思った。