真夜中のパレード
透子の思いに反して、
上条の声も態度も、どこまでも真摯だった。
「天音さん。
私は、あなたの信用に足る男ではないですか?」
そう言ってから、『天音』という名前が
本当の物ではないことに気づいたのだろう。
少し自嘲気味に笑う。
「本当の名前すら教えられないほど、
私のことは信用出来ませんか?」
思わず大きな声が弾ける。
「違うんですっ!」
それから少し声をひそめ、ぶんぶんと横に首を振る。
彼の手をぎゅっと握った。
「違うんです!
直樹さんに問題があるとか、
そういうわけじゃないんですっ!」
俯き、小さな声で告げる。
「……問題があるのは私の方です」
必死で抑えようとしているのに、涙が浮かぶ。
「ごめんなさい、ずっと隠していて」
Santanaで働いている店員の笑顔が浮かんだ。
「私の名前は、藤咲天音じゃありません」