真夜中のパレード
するとかわいい笑顔の店員が、
三つ編みを揺らしながらチョコレートとココアを
テーブルに置いたのだ。
自分の注文したものではないと告げると、
藤咲は人差し指をたて、楽しげに口元に当てた。
「藤咲さん、
『テンチョーには内緒ですよっ。
お姉さん、どうぞ飲んでください』
って」
その時の透子は、ただ困ったように
彼女を見上げることしか出来なかった。
「藤咲さん、言ってくれたんです。
『辛いことがあったら、
すぐに忘れるのは無理かもしれません。
でもせめてこのココアを一杯飲む間だけは、
何も考えないで、悲しいこと全部忘れてください。
甘いモノは、心を癒やす力がありますよっ』
て」
藤咲が厨房に戻った後、
透子はそっと温かいカップに触った。
ゆっくり口に運ぶと、甘い味が広がった。
今さっきまで、
飲んだ紅茶の味もちっとも分からなかった。
外の空気も、店の中も。
それまでは、全部真っ暗だった。