真夜中のパレード


きっと母の具合が悪いのを知って、
気を使ってくれているんだろう。


透子は満面の笑みを浮かべ、
いたずらっぽく質問した。


「天ぷら蕎麦ですか?」


「違う! 
お前はそうやって、
俺を天ぷら蕎麦ばかり食べる男だと思って……」


「あはは、思ってませんよ」


上着を羽織り、
にこにこしながら上条の後ろを歩く。


「何か食べたい物はあるか?」


「そうですね……
焼き鳥、が食べたいかもしれません」


「意外に渋い選択だな」


「上条さんは何か食べたい物ってありますか?」



和やかに会話しながら、部屋を出ようとすると。



プルル、プルル、と
内線電話がかかってきた。



……こんな時間に珍しい。


二人は話すのをやめ、思わず顔を見合わせてしまう。



「俺が出る」


「ありがとうございます」


透子が軽く会釈すると、
上条が腕を伸ばし近くにあった受話器を持ち上げた。


「はい、上条です」


相手は受付の女子社員だった。


「上条さん、お疲れ様です。

七瀬さんはまだいらっしゃいますか?
鈴架総合病院からお電話なんですが」


「分かりました、少し待ってください」


上条は硬い表情で受話器を下にさげ、
透子に話しかける。

< 179 / 307 >

この作品をシェア

pagetop