真夜中のパレード
とぼとぼと歩いていると、
目の前に突然大きな物が飛び出してきて
それにぶつかってしまう。
「痛っ……」
透子は何事かと顔を上げ、
まずいことになったと青ざめる。
ぶつかったのは一目で柄が悪いと分かる男だった。
「おいお前ぇ、前見て歩かんかい!」
しかも更によくないのは、ぶつかった男が酒臭いことだった。
かなり酔っている。
極めつけが、この“顔”でいること。
大声で怒鳴りつけてきた男は、透子の顔を見た途端値踏みするようにぶしつけに上から下まで観察し始めた。
「へぇ。
姉ちゃん、えらいかわいい顔しとるな」
迂闊だった。
擬態を完璧に施すのは無理であっても、やはりある程度顔に変化をつけておくべきだった。
少なくとも普段会社にいる時の自分であれば、ぶつかった男もこんな絡み方をせず大声で怒鳴ってそのまま興味を失ったはずなのだから。
――やっぱりこの顔でいると、何もいいことがない。
どんなに後悔しても、もうどうにもならなかった。