真夜中のパレード
 ☆



「お飲み物はいかがですか?」


添乗員に声をかけられ、
書類を真剣に見ていた上条は顔をあげた。


透子に声をかける。


「七瀬、何か……」


そこではっとして言葉を止めた。


透子は気持ちよさそうに、
胸を小さく上下させてよく眠っていた。


上条はくすりと笑い、添乗員に告げる。


「じゃあ冷たいお茶と、
あとブランケットをもらえますか?」


「はい、かしこまりました」


添乗員は紙コップについだお茶を上条に渡し、
少し後から青い薄手のブランケットを持ってきた。



「ありがとうございます」


上条はブランケットを広げながら、
透子の顔をそっと観察した。


機内の揺れに合わせ、
細い髪の毛がさらさらと流れる。

彼女の髪の毛の長さは肩の上あたりだけれど、
どことなく毛先が不揃いだ。


もしかしたら、自分で切っているのだろうか。


彼女の性格なら、そうであってもおかしくないと思った。



社会人として問題があるほどではないけれど、
この外見への頓着のなさは年頃の女性にしては珍しい。



いや、無頓着というよりは。

むしろ着飾ったり自分をよく見せようとすることから、
敢えて遠ざかろうとしているような。

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