真夜中のパレード


透子が逃げ出そうとする間もなく、男に手を強く掴まれた。



「ほら、一杯付き合ってくれたら
今ぶつかったんなしにしてやるけぇ」



「離してください!」


今更遅いと分かっても、透子は冬馬が消えた方向をすがるように見つめた。


暗い路地には、やっぱりもう誰の姿はない。



「やめてください!」


「ええやろー、少しくらいー」


何を言っても取り合ってもらえない。
自分はこのままこの男に連れて行かれてしまうのだろうか?



そう考えると、ぞっとして血の気が引いた。



「お願いです! 離してくださいっ!」


しかし、透子の細い腕ではどんなに力をこめても少しも抵抗にならない。


肩を抱きかかえられ、酒くさい息が顔にかかってますます絶望的な気持ちになった。


怖い。誰か助けて。
心の中ではそう叫んだけれど、声もちっとも出ないし身体も凍りついたように動かない。



泣きそうになりながら、ぎゅっと目をつぶって下を向くことしか出来なかった。



もうだめだ、と透子が諦めかけた時だった。



正面から酔っ払った男の物ではない声が聞こえた。





「見苦しい」



< 24 / 307 >

この作品をシェア

pagetop