真夜中のパレード
透子が逃げ出そうとする間もなく、男に手を強く掴まれた。
「ほら、一杯付き合ってくれたら
今ぶつかったんなしにしてやるけぇ」
「離してください!」
今更遅いと分かっても、透子は冬馬が消えた方向をすがるように見つめた。
暗い路地には、やっぱりもう誰の姿はない。
「やめてください!」
「ええやろー、少しくらいー」
何を言っても取り合ってもらえない。
自分はこのままこの男に連れて行かれてしまうのだろうか?
そう考えると、ぞっとして血の気が引いた。
「お願いです! 離してくださいっ!」
しかし、透子の細い腕ではどんなに力をこめても少しも抵抗にならない。
肩を抱きかかえられ、酒くさい息が顔にかかってますます絶望的な気持ちになった。
怖い。誰か助けて。
心の中ではそう叫んだけれど、声もちっとも出ないし身体も凍りついたように動かない。
泣きそうになりながら、ぎゅっと目をつぶって下を向くことしか出来なかった。
もうだめだ、と透子が諦めかけた時だった。
正面から酔っ払った男の物ではない声が聞こえた。
「見苦しい」