真夜中のパレード
消える、という言葉にぞくりと背中が冷たくなる。
冗談でなく、彼女の声に実際に実行するという
決意が込められている気がしたからだ。
後ずさると、靴の踏んでいる感触がかわった。
廊下の赤い絨毯に、ふわりとかかとが沈む。
「おやすみなさい、上条さん」
銀色の扉がゆっくり閉まっていく。
その合間に見える透子の姿も、だんだん消えていく。
今彼女を失ったら、もう二度と見つけられない気がした。
引き止めないといけない。
もう一度、きちんと話さなければいけないと思う。
――けれど、足は動かない。
手を伸ばし、扉をこじ開け、
彼女の姿が見えなくなるのを止めたかった。
しかし実際には、上条の身体は動くことを拒んでいた。
何日も眠らずに働いた後のように、
ずしりと身体が重かった。
目の前の扉は、
自分を全力で拒否しているように見える。
上条はじっとそこに立ち尽くしていた。
部屋の中からは、何の物音も聞こえなかった。
『明日からは、またいつも通りにしてください』
彼女の声が、頭の中で響いた。