真夜中のパレード
だけど、手が届かないと知っているから、
そんな純粋な物に
どうしても憧れた。
自分が透子に抱き続けた感情は、
きっとそれに近かったから。
本当に好きだから、踏み込まない。
本当に好きだから、言葉にしない。
本当に好きだから、手を出せない。
彼女を永遠に失うくらいなら、
他の男に奪われたほうがマシだと思った。
その決意は、
初めて彼女を好きだと自覚した時から
ずっとあったはずだ。
なのに、どうしてこんなに苦しい?
冬馬は顔を上げ、
前に上条とここに来た時に座った席を見やる。
近くで本物の藤咲天音が、
忙しそうに飲み物を運んでいるのが目に入った。
上条の真剣な瞳を思い出し、胸に苦い気持ちが広がる。
ああいうタイプは元々合わない。
苦手だと思う。
けれど、それと同時にどうしても、
彼を嫌いにはなれないとも思った。
小さな泡がグラスを流れ落ちるのを、
ぼんやり見下ろす。
自分の思いが報われることがないのなら、
透子と上条にうまくいってほしかった。
意外なことに、
最後に浮かんだのはそんな感情だった。