真夜中のパレード
ため息をつき、最後には口の中にマウスピースをねじ込む。
最もこれは歯並びの矯正のためにつけているのではなかった。
これをいれると口の中が横に広がり、ぷっくりと膨らんでみえる。
顔の輪郭が大きくなるのだ。
効果は抜群だが、これをつけている時に物を食べられないのは大きな欠点だった。
あとは出来上がった顔が不自然でないようにもう一度化粧をし直す。
ファンデーションを塗って鼻とシリコンの周囲を隠すと肌の透明感は消え、疲れてくすんだ肌色になる。
唇にも暗いピンクと紫の中間の色を塗り、血色が悪く見えるように。
すべてが終わった頃には、絶世の美女は姿を消し、どこにでもいるような冴えないやぼったい女性が鏡の前に座っていた。
「出来上がり」
彼女はこの変身を、『擬態』と呼んでいた。
女性であれば普通は少しでも自分を美しく綺麗に見せたくて化粧をするのが普通だが、彼女の目的は一つだった。
目立たないように、誰かの気を惹かないように。
毎日を平和に、穏便に何事もなく送って余計な揉め事を起こさないように。
彼女は敢えて美しい顔を消し去り、自分を偽ることを決めていた。