真夜中のパレード
上条はくすっと小さく笑い、優しげに目を細めた。
その笑顔は素直に優しそうだと思えた。
透子の胸がとくん、と高鳴る。
「怖くないと分かったら、電話番号くらい教えてもいい気になりましたか?」
「えっと……」
一瞬返答に迷う。
色々理由をつけて断るのは簡単だ。
けれど番号を教えてこの場は波風立てずに収めて、連絡を取らなければいいのではないか。
この場ではそうすることが一番いいように思えた。
迷った挙句、透子は母親の携帯の電話番号をメモに書いた。
以前は母親が使っていたが、入院してから母は意識が戻らず自分から電話なんてとてもじゃないができる状態ではない。
解約しようかどうするか迷いながら持っていた物だった。
これなら自分が自由に使えるし会社の人間は誰も知らない連絡先だ。
この番号から『藤咲天音』と『七瀬透子』を結びつけることは、まず不可能だろう。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
大丈夫。
電話がかかってきたら、今回のお礼を改めて告げる。
そして「また会いたい」と言われたら、理由をつけて断ればいいのだ。
それで『藤咲天音』は彼の前から存在を消す。
だから上条が天音に会えることは、もう二度とないのだ。
そう考えると、心から嬉しそうに笑う上条が名残惜しくなった。
透子の胸がちくりと傷んだ。