真夜中のパレード


「話聞くと、完全にお前に惚れてるじゃねーか。
このまま食事なんかしたら、つけあがらせるだけだぜ?」


「うん……」


透子もそれには正直どうすればいいのか分からなかった。


かと言って、やっぱり約束をしたのにわざと待たせるのはよくないと思う。
彼と食事をして、自分は一体どうしたいのか。


考えていると緊張してきた。


「私、もう一回化粧直してくる」



「今からそんなんで大丈夫かよ」

後ろから小さな冬馬の溜息が聞こえた。



トイレに入り、鏡の前でじっとウェーブのかかった長い髪を見つめる。
自分の顔なのに、どうにも見慣れない。


擬態を脱ぎ捨て、服も会社帰りに着替えて駅のロッカーに入れて来た。

この顔で外を出歩くのは、やっぱりなるべく避けたい。




――だけどこの顔で会えば、彼はとても喜んでくれる。



電話が繋がった時、上条は本当に心の底から嬉しそうな声を出していた。


そのことを思い出すと、どうしても彼の誘いを無碍に断ることは出来なかった。


< 39 / 307 >

この作品をシェア

pagetop