真夜中のパレード
☆
化粧室から席に戻ると冬馬が透子の携帯を勝手にいじっていた。
「……何してるの?」
「薔薇の花が年の数だけ欲しいです……っと」
「ちょ、ちょっと冬馬!」
「はい、そうしーん」
「あっ!」
透子は冬馬の手にあった携帯を引ったくった。
「なんてことするの!」
怒っても、メールはもう発信された後だった。
「冬馬っ、勝手に触らないでよ!」
透子が睨んでも、冬馬はちっとも気にしていないようだ。
「いいじゃん。復讐したくてやったんだろ?」
「だからって、こんなふざけた内容送って上条さん怒るに決まってるじゃない!」
冬馬は窓から時計塔を見下ろした。
「ほら、気づいたみたいだぜ」
透子も言われて上条の様子を見下ろす。
上条は上着から携帯を取り出し、メールを読んだ後時計塔の前を立ち去った。
「あっ……!」
冬馬はニヤニヤしながら煙草をくわえた。
「あーあ、さすがに帰っちゃったか」
それを見て、透子は肩を落として息を吐いた。
「……そう、だよね。
からかわれてるって気づいたら、嫌な気持ちになるよね」
透子は少し落胆しながら、小さくなっていく上条の姿を見下ろしていた。
そしてゆっくりと椅子に腰掛け直す。
最初は冬馬に怒っていたけれど、もしかしたらこれでよかったのかもしれない。
本当はこの顔で知り合いに会うなんて、避けられるなら避けたいに決まっている。
自分の正体が上条に知られたら、今の会社にいることは出来なくなるだろう。
だからこれでよかったんだ。
――彼を裏切るように終わってしまったのは、申し訳ないけれど。