真夜中のパレード
ちくりと痛む胸に気づかないふりをして、飲みかけだった紅茶を口に運ぶ。
「とにかく、もう冬馬もこういうことはやめてよね!」
「はいはい」
しばらくして冬馬が引きつった声を出し、窓の外を凝視した。
「おいおい、あいつまじかよ」
「え?」
つられて店の外を見て、透子は息を呑んだ。
冬馬が冗談で送ったメールの通り、大きな薔薇の花束を抱えて上条が走って時計台の下に戻ってきたのが見えたからだ。
こんな短時間で、一体どこまで行って来たのだろう。
ゲラゲラと冬馬が大笑いする。
「すげぇなぁ。
今の時間にあんなもん、どっから調達してきたんだか!」
確かにそれは、傍から見ると滑稽な光景かもしれない。
道の真ん中であんなに大きな花束を持っている人なんて、普通に生活していて目にすることはまずない。
かなり目立っているし、彼の近くを歩く人も興味深そうにじろじろとそれを観察している。
けれど透子はそんな上条の姿を見ただけで、なぜだか胸がいっぱいになってしまった。
そして、無言で席を立ち上がる。
机の上の携帯を取り、鞄を肩にかけた。
「おい!」
止めようとする冬馬の声を遮り、凛とした響きで言った。
「私、行ってくる」
冬馬は咄嗟に彼女の手を握り、引き止めようとする。
「待てよっ!」
静かな。
それでも決意のこもった瞳で、彼を睨みつけた。
「離して、冬馬」