真夜中のパレード
透子が自分の席に戻ろうとしていると、外出先から課長の上条(かみじょう)が帰ってきた。
それを見た途端、木本は猫撫で声になって上条に声をかける。
「あら、おかえりなさい上条さん」
上条はあまり表情のない男だった。
背が高くて威圧感があり、必要以上に会話をしないし、話している時もどこか不機嫌そうだ。
なので透子は木本とは別の意味で上条のことも苦手だった。
上条は木本の近くに立っている透子を見て、質問した。
「七瀬がどうか?」
木本はさっきとは打って変わって愛想よく答える。
「いいえー、また七瀬さんがちょっと失敗したので、注意しただけです」
すると上条は冷たい目で透子を一瞥し、興味がなさそうに言い放った。
「七瀬に言っても仕方ないだろう」
その一言は、ずしりと心に重くのしかかった。
そんな言い方しなくても、と思ったけれど、もちろん口に出すことは出来なかった。