真夜中のパレード
☆
今週の透子は気分が軽かった。
なぜならいつもチクチク嫌味を言ってくる木本が新人研修で一週間他の支部に出向して社内にいないからだ。
申し訳ないと思いつつも、彼女がいないとやっぱり仕事がやりやすい。
そのうえ木本の変わりに透子の仕事を指示する役目は上条になった。
というわけで仕事中も、ついじっと上条を見てしまう。
相変わらず、不機嫌そうな顔。
「……何だ?」
「いえ」
見ていたのに気づかれ、さっと視線をそらす。
「七瀬」
「はい」
声をかけられ、はっとして顔をあげる。
「今度取引する仕事先に、挨拶行くから。
お前もついて来い」
「あ、はい」
仕事で彼と二人きりで出かけるのは、初めてだった。
緊張していたけれど、挨拶自体は何事もなく滞り無く終わった。
曇り空を見上げながら、大きなビルの自動ドアをくぐり抜ける。
上条は疲れたように目を伏せた。
「もう二時か。
腹減っただろ? 昼、食べてから帰るか」
「えっ……あ、はい」
返事があやふやな物になる。
極力会社では人と接しないようにしているけれど、極稀に一緒に食事をする機会がある。
そういう時は、けっこう頭を悩ませる。