甘い誘惑~なんだかんだで彼は私の扱いが巧いらしい~

自分のデスクに着いた山門は何を考えているものかじっと一点を見詰め沈思黙考の後、眦を決したような顔を上げた。


「あの差しでがましいとは思いますが萩原さ―――――うわぁ!?」


悲鳴は思いの外私が近くにいたからだろう。

ぶんっと風を切る勢いで突き出した私の腕に山門が反射的に仰け反った。

その勢いでキャスター付きの椅子毎後ろへ吹っ飛び、壁にぶち当たって停止した。

逃 が す か っ !

ドンッ

逃走封じに彼の耳脇を掠めた腕が鈍い音を響かせた。

それを視線で辿った山門は私と目を合わせた途端、怯えたように巨躯を憐れな程に縮こまらせた。


「あ、あああの萩原さん一体何……って、本当に何事っ!?」


承諾もなしに彼のスーツのポケットを漁りだした私に山門が素っ頓狂な声を上げる。

しかし出てくるのはメモの切れ端とかハンカチのみ。


「嘘!そんな事ある筈ないんだから!私は誤魔化されないわよ!!」

「ちょ、え?ナニ!?」


はっ!

まさか―――

私は慌てて山門の首筋に顔を寄せた。


「~~~~っ!?」

「……違う。」


ココナッツでもアーモンドでもない……

甘い香りだけど流石の私もフローラルじゃあね……


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