課長が私に恋してる?
ゴォっという音と共に目の前に停車する電車。
その勢いのまま髪は風に煽られる。
軽快な音と共に開いたドアからは幾人かが降りてきて、その人波の中に、さっきまで隣にいた男を見つける。
すらりとした背丈、まるでどこかの御曹司でもあるかのような端正な顔立ちと、品のある雰囲気。
(うーん、やっぱり眼福だよねえ)
しかし今彼が左手に持っているのは、無造作にネギがはみ出した大きなビニール袋だ。
なかなか間抜けな姿に、琴子はひとり心の中だけで笑う。
するとまるで琴子の胸の内が聞こえたかのように、ふと如月が顔を上げる。
(あっ……)
バチっと、効果音が聞こえた気がした。
それくらい、しっかりと如月と琴子の視線は交錯した。
一瞬、時が止まったように見つめ合う。
ドクンと一度大きく胸がなって。
その、如月の強すぎる眼差しに、不安に似た何かが琴子を襲う。
(こんなことが、前にもあった)
こんな風に見つめ合うのは初めてではないと、琴子の記憶のどこかが慌ただしく主張していた。