課長が私に恋してる?
しかしその感覚は一瞬。
如月が不機嫌に眉を寄せてこちらに向かって歩き出すと同時に金縛りは解けて。
(あれ……?)
その既視感もまた、どこか頭の隅っこに追いやられてしまった。
目の前に来た如月に慌てて琴子はペコペコと頭を下げる。
「すみません、如月課長!お手数をおかけしてしまって」
すると、如月はコンと琴子を軽くグーで小突いた。
「本当、お手数だったんだが。
さっきはいきなり電車降りてったかと思ったら、お前の荷物が席に散乱してるし」
皮肉げにそう返されるも、いつものごとく小言は完全スルーして、琴子はずいっと両手を前に出した。
「ほんっと助かりましたー!じゃ、そのお野菜、こちらに渡していただけますか?」
にこにこっと笑ってその態勢のまま、如月が袋をこちらに渡してくれるのをじっと待つ。
(………ん?)
しかし、一向に如月が袋をこちらに渡す様子はない。