課長が私に恋してる?
しかし、そんな琴子の必死で紡いだ言葉をどう受け止めたのか、彼はさらに右手を掴む手に力を込めた。
「………なら、そっくりそのままその言葉を返してやる。
ひたすらお前を口説いてる俺の努力も評価してくれても宜しいのでは?」
ーーやられた。
見事にあげ足を取られて、ぐっと言葉につまり、ゆっくりと振り向いて後ろの上司を睨みあげて。
そして気付く。
(………このひと、本気だ)
見上げた彼の表情には、一言で言うと余裕がなかった。
少し汗ばんだ額に前髪がちょっとだけ張り付いている。
いつだって余裕があって、上品な印象だったはずの彼の物腰は今は微塵も感じられない。
むしろ焦りや不安といったものが全面に出ている、琴子が知ってる如月とは真逆の彼がそこにはいた。
(………可愛い、ひと)
そんなふうに思ってしまった自分に琴子は戸惑う。
琴子を押さえ、抱える両手は微かに震えてる気さえ、した。