課長が私に恋してる?


背の高い如月。
ネクタイを首に通すためには腕を彼の首に回すから下手すれば抱きつくような格好になってしまう。



「あの、もう少しかがんでください」



極力それは避けたいーーそう思って指示すると、意外にも彼は素直に従った。



「ほら」



そうして大の大人の男が琴子に素直に頭を下げるような格好をすると、本当、この目の前のひとが上司だなんて思えなくなる。



(………。ほんと、恋人同士みたい……)



テレビを消した部屋。
外からは軽やかなすずめの鳴き声や車のざわめきが窓一枚隔てて聞こえてくる。



しゅるしゅるとした気持ちのいい衣擦れの音が一際耳に飛び込んでくる。



(顔、赤くなりそう……)



いつも暗闇で添い寝をしているときより、明るい部屋で息遣いすら聞こえるくらい近くにいる今の方が緊張する。



首に腕を回してネクタイを通す。
ちょうど、抱き合うような格好になる。



その瞬間を如月は見逃さなかった。



「きゃ……っ!」



ぐいと腰ごと引っ張られ、ぎゅ、と軽く抱かれる。
ふわりとマリンノートの匂い。如月のスーツに染みるコロンの香りに抱きしめられてるみたいだ。


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