課長が私に恋してる?
「あ、あの……なんの御用でしょうか」
少しの沈黙ののち、先に耐えられなくなったのは琴子の方だった。
ごくり、と唾を嚥下させて、ビビりながら目の前の男を見上げる。
いまだ振り向いてもくれない上司は、しかしながら琴子の言葉にピクリと右手をうごかした。
(なんだその取って付けたような反応は!)
ちゃんと言葉で会話してくれ、とむしろテレパシーに乗せて如月へと送信してみる。
ちなみにもちろん反応はナシ。
「課長、えっと、会議室に呼び出したってことは、私もしかして課のみんなに聞かれちゃマズいくらいの失敗しちゃったってことですか」
無言。
あまりの反応の無さに、そろそろ呆れてくる。
ふう、と一息ついて。
いっちょ爆弾でも投げてみようかと琴子は口の端を上げた。
「………それとも課長、もしかして嫉妬しちゃいました?」
くす、と笑ったのは挑発だ。
この彼のイライラの理由がもし嫉妬だったら、というさっき思い付いたバカバカしい理由をどうか拭い去ってくださいよ、という願望もある。
さっさと「阿呆かお前は」とため息をついてほしい。
そんな中学生顔負けの嫉妬をする課長なんか知りたくない。