課長が私に恋してる?


「………へ?」



なんだ、それは。



「かちょー、いま、私わりと真剣に聞いたんですけど。意地悪言わないで下さい」



「意地悪じゃない。
お前のためにも、俺のためにも、お前に執着する理由は言わない。言ってもいい結果にはならないからな」



そう言って彼は、もうこの質問は終わりだとばかりにリビングを抜けて洗面所へ向かう。
慌てて琴子はその背中を追いかける。



「な、なんでですかっ!理由が分からないとやっぱりモヤモヤするんです!もし課長が私のことを何かしら想ってるなら理由を知って納得したいって思うのはおかしいことですか!?
って、あー!!歯磨き!歯磨き始めて答えたくても答えられないアピールしやがった!コノヤロー!!ズルすぎるこれが若くして課長まで上り詰めた男のやり方か!!!汚い!!」



ギャーギャー騒ぐ琴子をよそに、如月はそれ以上その質問について何か言う事はなく、やはりモヤモヤを抱えたままこの日の夜は更けていった。



しかし眠りにつく直前、彼はこんなことを言うのだ。



「理由なんか、高遠が本当に知りたいって思ったら、いつでも言う」



「………いまも、本当に知りたいんですけど」



「本気度が足りないから却下だ」



「…………」



どうやら教える気は無いらしい。



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