足音
◇◇◇


なんだよ。


こんなの、酷すぎるだろ。



「…え?」



ゆっくりと後ろ振りかえると、固まった彼女がいた。


顔をぐちゃぐちゃにして、ずるずると鼻水を啜る彼女が。



「…1週間、舞い上がってた。まさか、加世が俺を…とか、馬鹿なこと考えてた」


「…」

ぶんぶんと意味不明な首ふりをする。

たぶん、信じられないとかそんな感じの。


「…だから、稲毛がアプローチしてるのがわかって、変にイライラした」


ピクッと。

犬みたいに目を見開く。



「変なこと言ってごめん。つまりはその――おれと付き合って」



へなへな、と。


廊下に力が抜けたように崩れた落ちた。


「ちょ、おい!?」


「…いいの?」


見てられない顔をあげて。



「私、これからも南追いかけて、歩いていいの?足音、合わせていいの?」



胸が締め付けられた。


自惚れじゃなく、本当に俺の言動は彼女を苦しめたんだ。



ごめんじゃ足りないくらい。



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