貧乏アリスを捕まえて
プロローグ
決められた真っ直ぐなレールを、ただ歩いてきた
「ねえ、レイ様。今日から私もレイ様と同じ有栖川学園の生徒なんですよ」
くるりと、有栖川学園指定の桃色のスカートを翻しながら回る少女蓮見桃子(ハスミ モモコ)は美しかった。母親がフランス人だという彼女のブロンドの髪がまた、服によく栄える。俺は無邪気に微笑む彼女の手をとり、そこにキスを落とした。
「よく似合ってるよ、桃子」
「…他には?」
「可愛い」
頭を優しく撫でれば、桃子はその頬を林檎のように赤くした。桃子は俺の幼馴染みで、許嫁だ。それは俺達が産まれる前から決まっていた運命らしい。俺も桃子も、そのことに不満はなかった
「…ねえ、本当に私がアリスなの?」
「ああ、勿論だ。伏見が既にくじの方に細工をしている、他のメンバーだって桃子のメンバー入りを楽しみにしているんだよ?」
「嬉しい、私楽しみにしてるわ」
「俺もだよ」
今度は手ではなく、頬にキスをすると桃子はさらに頬を赤くした。
私立有栖川学園は俺の祖父が設立した学校には少し変わった習わしがある
『ワンダーランド』
欲に言う生徒会のような存在のそれは、有栖川学園のアリスにちなんだ帽子屋に白うさぎ、チェシャ猫、ハートの女王に王という遊びの聞いた通称がある。メンバー一人一人が勉学にスポーツ、容姿に家柄とずば抜けて長けている。
そして俺はワンダーランドの一人、王を担っている。何より忘れてはいけないのは『アリス』の存在。他のメンバーは毎年選挙で決められるが、アリスだけは違う。アリスはその年に入学してきた1年生の少女たちに権利がある。何千人という中の一人、くじで決められるラッキーガールだ。
しかし今年は違う、今年はそのラッキーガールは既に決まっている。それが桃子だ
桃子の、はずだったんだ
何もなかったはずの俺のレールの上に、その日大きな石を置かれた。