貧乏アリスを捕まえて
01
白ウサギ君との出会い
「この国はお金の使い道を間違えている」
私立有栖川学園、前。トータル何十万というこの制服は有名ブランドのデザイナーが仕立てたとか何とか、着心地は最高なはずなのに値段のせいか肩が重く感じる。
雛森美奈子(ヒナモリ ミナコ)、十五歳。
この目の前の無駄に大きい学園に私は今日から通います。庶民の自分がここに通えるのは、所謂奨学金制度というもの。玉の輿を狙っているわけではない、自分はここに目的があってきた。
「それにしても」
ここは、どこですか
正門から学校までそれなりに距離があるせいか、歩いている生徒は一人もいない。横を通りすぎる黒光りの外車の数々にはため息しかでなかった。そして、咲き誇る桜並木を追っているうちに迷子になってしまったらしい
『迷子のお知らせをします、〇〇市からお越しの雛森美奈子ちゃん』
ショッピングモールのサービスカウンターで大泣きする私を、お母さんとお父さんは迎えに来てくれた。二人は私を抱き締めて、一緒に泣いていた。ぼんやりと思い出した昔の暖かい記憶にぼろりと、知らずのうちに涙が溢れた。
「迷子なの?」
「!」
は、突然聞こえた声に視線を上げると木の幹に座った白に近いふんわりと、まるでバニラアイスのような甘い色の髪をした男の子。目は下からでもわかる綺麗な青色をしていた
「ち、違いますっ」
「でも泣いてるじゃない」
「あ…」
指摘されて初めて気づく。恥ずかしさにごしごしと乱暴に制服の袖で拭き出すと、男の子は木から飛び降りてきた。驚いて思わず後退レバー目前にだされた白いハンカチ、首を傾げれば男の子は笑っていた。
「これで拭きなよ、女の子なんだから」
「すみ、ません」
「君新入生だよね?じゃあ、これ」
手のひらに置かれた四つ織りの小さな紙
「え?ごみ、ですか」
「ッ、あはは」
私の言葉に男の子は盛大に吹き出して、お腹を抱えて笑い出す。きょとんとした私の呆然とした顔にさらに男の子笑い出して、少し不機嫌になる。
「!何が可笑しいんですか」
「はははッ、ゴミはゴミでも最上級に価値のあるゴミだよそれは」
「はあ?」
「君、名前は?」
「…雛森美奈子、ですけど」
未だに笑いを堪える男の子に不信感を抱きつつ、私がぶっきらぼうに名を答えると男の子は考えるように腕を組んだ。
「ヒナモリミナコ……じゃあ、ひよこちゃんだね」
「はあ?!!」
「オレ、名前覚えるの苦手だからニックネームつけて覚えるの」
それにしたって、『ひよこ』はあんまりだ
「じゃあ、またあとでね。ひよこちゃん」
「っちょっと待ってください、あなたの名前は?」
背を向けて歩きだした男の子を呼び止めると、男の子はゆっくりと振り返って言った。
「白ウサギ」
意味がわからない!
「本名を教えてください」
「そのうちわかるよ、…ほら、入学式遅れちゃうから走って!」
言葉の通り走り出した白ウサギ?君、道もわからない私は男の子の後を追うことしかできない。
白ウサギを追って走る女の子、まるでおとぎ話の『アリス』だ。そんなことを考えながら、私は履き慣れない革靴で男の子の後を走った。
(それにしても、遠すぎる)