「お前なんか嫌いだよ」
「七海瑞樹」
呼ばれた声に、フルネームかい、と振り返るとそこには天敵、夏樹主任がずどーんと立ちはだかっていた。
業務以外で声かけられたこと自体久しぶりすぎて、なにがどうして私めなんかになんの御用でしょうかと首を傾げてみせる。
「ん」
ずいっと差し出された手に思わず右手で応じると、
そこに転がったのは50円玉だった。
「あ、私…そうだ、おつり取り忘れてた!」
なんだ主任ってばわざわざ追いかけてきてくれたの。
そう思うと、いつもきつく当たられてる分なんだか嬉しくなってくる。
「ありがとうございます、助かりました」
ふにゃっと笑ってぺこりと一礼すると主任はますます眉間にしわを寄せる。
まだお若いのにそれじゃあ小じわになっちゃうんじゃないかなあ、と心配してしまう程度には私と話すとき常に彼は眉間にシワが寄っている。