四葉のクローバーの秘め事
「放心状態だったと。調書には精神的ショックによる健忘とありました。事件のことは覚えてないの一点張りだったそうで。担当医によると打撲痕が複数あったそうで、郁榎の体にもその形跡が見られ、虐待とDVを疑った。ただ…」


「DVなら死亡の順番が逆ね。」



「そうなんです。郁榎は頭の傷以外に浅雛が揺さぶったであろう手形以外は、血は全く付着しておらず、蝓兵の方は逆に血まみれでした。」



入口付近に倒れていた蝓兵に気付き揺り起こそうとして手に血が付き、驚いて血液が付いたままの手で向かいに倒れていた郁榎も同じく揺り起こそうとした結果だ。



死亡原因がDVによるものならば、我慢の限界を越えた郁榎が蝓兵を刺した後、郁榎が死亡したと考えるのが自然だ。


しかし、事実は逆。


郁榎が刺したのならば、全身が染まる程の出血があった蝓兵の返り血を浴びていない筈はない。


司法解剖の結果、両者の死亡時間に然程違いはなく、着替えるなど不可能。

工作など外的要因も見当たらない。


死亡に至る理由が、夫婦間におけるものでもない。


従って、蝓兵と郁榎以外の第三者によって行われた殺人だということは明らかだ。
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