夢の欠片 ~カタチあるもの~
プロローグ
「優奈、ちょっといいか」
ぼんやりと輪郭が掴めないけど、私は教室でいつもの席に座っていた。
羚弥(れいや)くんの背中には後光のさすように白い霧が遊んでいた。
「どうしたの?」
少し前まで羚弥くんは私のことを「由梨」と呼んでいた。最近はそう呼ぶことはないけれども、「優奈」と呼び始めた頃みたいでくすぐったい。
「うーんと、あ、んん、その、さ……」
「ホントにどうしたの? 羚弥くんらしくないね」
「あーうん、まぁ、ちょっと」
何事もすぱっと決めるほうな羚弥君なのに。そんなに言いづらいことなのかな。
「それでなぁに?」
「だから……その!」
言葉を紡ごうとして息を詰める。
「……はい」
思わず一緒に息を止める。
「かっ」
「か?」
「……せぇっ!」
「せ?」
かせ? なにをだろう? 貸してたイヤフォンを返してほしいくらいだけども。
「だいじょうぶ?」
「ああ……好きだ」
「えっ、あっ、えと……うん」
ふいうち。
手品の鳩が出たような、柔らかくて優しいときめきをいきなり顔にぶつけられた、そんな気持ち。
「俺は優奈が好きだ」
「あ、うん、あはは……あっつくなってきちゃった」
羚弥くんから視線をはずして、少しおどけてみせる。
ジンジン顔が熱くなっていくのもおかまいなしに、真っ直ぐ私の瞳を射抜き続けていた。
「優奈、ここからは、真剣に聞いてほしいんだけど、」