夢の欠片 ~カタチあるもの~
「陽菜こそどうしたの?」
「ずっと学くんと話してたんだよー」
ちらりと違和感を感じて、頭にサイレンが鳴る。
間違い探しでもするように姿を見つめ直した。
「へぇ、そうなんだぁ……それ、なに?」
陽菜の手には『CDでも入っていそうな』平べったいビニール袋が下げられていた。
なんとなく、悪い予感がした。これはただの勘だ。
「これ? これはね」
違ってほしいと願っていた。
中にはたわいない合唱コンクールのための楽譜だとか、参考書だとかが入っていると。
なんだぁそんなものか、なんて胸をなでおろしたかった。
「友達に借りたCDだよ」
ひときわ高く胸が鼓動をうった。息が止まってしまうところだった。
「へ、へぇ。どんなCD?」
「どんな? 合唱コンでやることになった曲だよ」
「ごめん! そのCD貸して! 今! 少しでいいの!」
陽菜は戸惑いながらもCDを取り出して渡してくれた。
お礼を言って、神永くんに向き直る。
「言いたいことはわかるけど、やめておいたほうがいいよ」
「俺が聴く」
羚弥くんが言った。
「そんな、ダメだよ! どうなるかわからないのにっ」
「ならなおさら、優奈には聴かせられない」
「君たち……本気かい?」
夕陽は町を赤く染めていた。
マンションはゆっくりと影を伸ばして私たちを飲み込もうとしている。
「お前らなにやってんの……」
小芝居を一旦おひらきにすることに決めた私たちは、
CDを借りて、安全かどうか聴くかどうかを、家でじっくり相談することにした。