夢の欠片 ~カタチあるもの~
「なぜお前は兄と同じようにできない?」
「ごめんなさい」
震えた声が言った。
「なぜ、できない?」
「……ごめんなさい」
「うるさいッ!」
胸を刺すような響き、頬をうたれたような寂しさ。
ころんと床に転がる重さがそれに続く。
「もうしわけ、ありません」
「もういいでしょう父さん」
「だまれっ! お前もぶたれたいか!」
乱暴な足音はずんずん優しい声に向かっていった。
手を振り上げるような緊張の瞬間、甲高く声が叫ばれた。
「やめてぇぇぇえええええーーー!」
どっとぶつかり合うと、鈍くなにかが軋んだ。
低い喘ぎ声が驚きに変わった。
「父さん、血が……」
呼吸が荒くなっていく。
「この、うっ、こんな、ガキがぁ!」
髪の乱れるざわざわとした音。引き回されている。
どこへ連れていかれるの。
「いたいってば! はなせぇ!」
「ここに入ってッ、反省してろォ! 二度と出してやらねぇ!」
「出せ! 出せぇ! だせぇぇ!」
突き落とされるような不安、真っ暗。
「ガキが大人に反抗してんじゃねぇ! 一人じゃ飯も食っていけねぇ、金食い虫はなぁ、大人の言うこと聞くもんなんだよ。ガキ」
焦燥感。
閉められる。閉じ込められる。永遠にこの真っ暗に独りきりにされる。
ひたすらに叫ぶ。
蝉のように。
命を燃やして。
視界は優しく光に包まれて、長い長い悪夢からようやく解放された。