夢の欠片 ~カタチあるもの~
祝日を満喫して、来るは平日。
いつも通り羚弥くんと登校している、涼しい朝だった。
「おはよー二人とも」
「おう、おはよ」
「おはよう、陽菜。そうだ、CD返すね」
陽菜とは家の方向が一緒で行き帰りがたまに重なる。
よかった、合唱コンクールの関係で使うなら早めに返そうと思っていた。
「それにしても曲決めるの早いねー、委員会の直後だったのに」
「男子が勝手に盛り上がってるんだー。エンジャル・アキの手紙なら中学でやったし楽勝だって。反対する理由もないからいいかなーって」
「あはは、けっこうてきとうなんだね」
合唱コンクールは委員に選出された人とクラスの合唱部が連携して進めていく。
具体的な線引きはないけど、委員は事務的な作業で、合唱部が実務的な作業、というのはあまりにもざっくりしすぎかな?
基本、課題曲と自由曲の二曲を歌う。
自由曲の提案は委員と合唱部で行って、合唱部がこの曲は難しいだとか先生はこの曲が嫌いだとか、シビアに選ばれる。
決まったら委員長に伝えて、OKが出ると練習開始という流れになっている。
だから決めるなら早いほうがいい。
「もう今日にでもクラスの賛成とって苗さんのとこ行くみたいだよ」
「もういくんだ! すごいやる気……」
委員長のOKは、被らない限りまず出るらしい。
だから毎年のことだが早いもの勝ちの競争になる。
「羚弥くん、私たちも被らないうちに苗さんのとこ行かなきゃね!」
「焦らなくても委員長のとこいくクラスなんて陽菜の二組くらいだろ」
「こういうのは勢いが大切だよ!」
秋の陽は暖かく降り注いで冷気から遠ざけてくれた。
木々は陽を受けようと身体を揺らしざわざわ奏でた。
すうと一瞬のうちに風が私のブレザーを抜けていった。
どこへ運ばれるのか、その風は見えなくなってしまった。
「ああ寒っ、今年はもう寒いよ。お兄ちゃん」
風は運ばれて抜けていった。