夢の欠片 ~カタチあるもの~
午前授業でクラスはそわそわと空っぽになっていく中、私はぼんやりと神永くんとの会話を思い返していた。
「ま、いっか。帰ろっ」
羚弥くんに声をかけると、身支度なんてもう済ましていて、話でも切り出そうとそわそわしている。
休み時間に学くんと話してからずっと落ち着かない様子だった。
「帰らないの?」
「あのさ、実は今日、体育館空いてるらしくて、学に誘われててさ……」
「それでなーんかそわそわしてたんだ。わかった! 先に帰ってるね」
少しはにかむと「ありがと!」と嬉しそうに廊下を駆けていった。
ぼんやり背中を目が追いかけると、ドアを曲がって、太陽みたいな君が真横に沈んだ。
すっかりと、教室からは音がなくなっていた。
ふと胸に暗いものが浮かんで、忘れたフリをした。
一瞬よぎったそれを、私は中学生の頃に置いてきたはずなのに。
出しっぱなしの誰かの椅子を前に引くことさえ私にはできなかった。
すぐに家に帰りたかった。忘れていたんだ。
学校は独りきりでは楽しめないんだ。
めらめらと想い出しそうになって、体育館に嫉妬した。
急いで靴を履き替えて、玄関を出ると真上に太陽がにらみつけていた。
急にぐにゃんと大きな火の玉が湾曲すると足が崩れた。力が入らない。
いけない、これは貧血だ。手足が溶けていく。
頭が重くて、前のめりに落ちていくと、優しい腕が後ろから私を引っ張り上げてくれた。
「大丈夫? ふらふらしてたけど、って大丈夫なワケないよね」
「た、助かりました。貧血みたいで」