夢の欠片 ~カタチあるもの~
「実はね、うちの学校では初めてだけど、県内ではもう相当数の被害が出てるの」
「相当数って、そんなに出てるのか? そんな事件、今日初めて聞いたぞ」
「ほとんどの事件は学校じゃなく生徒の自宅で起こってるっていうのと、異常事態過ぎて学校や教育委員会が事件を伏せてるみたいなの」
「そこまで大事になってるんだ……」
真理は『黒い男事件』以来のスクープの予感ににジャーナリスト魂が燃え上がっているみたい。これはあきらめないわけだ。
「突然叫び出したり暴れ出して手が付けられなくなる―—神永現象のパターンはどの学校も一緒。暴れて、時間が経つと強烈な睡魔に襲われて眠り、目が覚めると、なーんにも覚えてないの」
「ちょっと待ってくれ」
「神永くんの場合はどうだったか気になるのね!」
「もうそろそろ暗く……」
「神永くんも全くのパターン通り! 話に聞いたまんま!」
「あ、そうすか……」
とうとう羚弥君はあきらめてしまった。私は元からあきらめていた。
でも、たしかにそれが本当ならとんでもない大スクープになる。それが本当なら。
「なにか証拠があるの?」
「それがさー、ぜんっぜんわからなかったんだよね。正直、今日まで私も眉唾物だと思ってたんだけど」
「『たんだけど』?」
「見つけたのよ、証拠」
風に揺れる木々の声は、どことなく私たちを涼しくしてくれた。
窓から伸びきった影のしっぽに触れて、いつまでもこのままいれるような心地よさもあった。
胸騒ぎが止まらなくて つうと汗が流れた。
オレンジ色の太陽は街ごと私たちをじっと睨んだまま、沈む気配はなかった。