始まったばかり
外に出るつもりではない。誰にも邪魔されない場所でちゃんと話がしたかった。


「こ、こんなとこに連れてきて、何をする気なのよ」


「何って、話するだけだけど。何か期待してるの?」


他の女子社員よりも地味に見える美月は自分に自信がなかった。誰にも見られない場所で罵倒されるのかと思った。

彰人から冷たい言葉を聞きたくない。3日前、彰人に「好きだ。付き合って」と言われたのは嘘だ、騙したんだと言われたくない。


聞きたくないから、逃げよう。美月は通用口のドアノブに手を伸ばした。何がなんでも逃げたい。ここにいたくない。


「美月!」


ドン!


美月の行動を予測した彰人は、通用口の反対側へ美月を追いやって、逃げれないように両手を壁に付けて、行く手を妨げる。身動きの出来ない美月は焦る。

逃げさせてくれないなんて、泣きたい気分だ。眼鏡の奥の美月の瞳に涙が溜まる。

彰人は、その眼鏡を外した。







< 2 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop