禁じられた放課後
出会いと偽り
風を含んだ朝の光が、部屋の端にある白いソファを照らし出す。
その後ろに掛けられた二着のスーツは、袖を重ね合わせながら柔らかく春の空気に揺れていた。
「そろそろ目を覚まさないと」
テラスのカーテンを背に美咲が伸びをしながら振り返る。
シーツが波打つダブルベッド。
その幅は結婚一年目の二人にとって未だ広く感じられるようだった。
「直哉。新しい生徒達が待ってるのよ」
「うん……わかってる」
スケジュール帳の上に置かれたメガネを手に取り、直哉はベッドから腰を上げた。
目の前に立つ美咲を抱き寄せ額に軽く唇を当てる。
外の様子を確かめながらメガネを掛けると、街は希望を示すかのように清々しく空を支えて広がっていた。
今日から直哉にとって新しい赴任先での仕事が始まるのだ。
「新しい生徒達か。楽しみだな」
「衝撃的な出会いの予感だって。朝のテレビ番組。今日の直哉の運勢よ。浮気しないでよねっ」
「ばーか、何言ってんだ。そんなの信じてないよ」
直哉は指で美咲を優しく小突くと、欠伸をしながら洗面台に向かった。
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