禁じられた放課後
「先生……大丈夫だよ」
直哉の後ろから涼香が寄り添う。
どうすれば直哉の気持ちが楽になるかなどわからなかったが、目の前の沈んだ背中を眺めれば、そうすることしかできなかった。
「弱いな」
「……先生?」
「どうしたらいいかわからなくて、今すぐ逃げたい気持ちなんだよ。どこか……どこか遠くへ行ってしまいたい」
「……」
逃げるなんて一番おかしい。
そう思っていても、本当の心はとても弱くて、苦難の状況に耐えるのはとても難しいことだった。
何もなかった時に戻せるなら。
そんな無情な願いさえ浮かんでくる。
「早瀬、僕と一緒に逃げる?」
体の震えが一瞬にして止まった。
それに反して、胸の鼓動が耳まで響いてくる。
涼香は直哉を覗き込み、直哉は自分の肩越しに涼香を振り返った。
メガネの奥の瞳が、いつもよりとても小さく見える。
「わ……私、先生と一緒になら行けるよ。ずっと一緒にいられるなら……」
肩を滑り落ちたタオルケットが足元に流れる。
治療室前の廊下は空気が張り詰め、星の光にまで耳鳴りを感じそうだった。
タオルケットを静かに拾う直哉。
それを再び涼香の肩に掛け直し、今度は正面から涼香を見つめる。
「……冗談だよ」