禁じられた放課後
それぞれの道
「判決まで時間はかからないみたい」
プラスチックでできた透明な壁越しに、美咲は視線を上げないまま直哉に口を開いた。
「執行猶予もつくみたいだし、そんなに長い期間にはならないって聞いてるよ」
一方で直哉は真っすぐに美咲を見据える。
夏だというのに、室内はひんやりと冷たい空気を押し込めていた。
何かを話す必要はとくになかった。
夫婦とは時に、言葉には出さなくともその身の中にある様々な思いを相手に伝えることがある。
二人は黙って向かい合ったまま、互いの胸中を感じ取ろうとするのだった。
「……泣いたの?」
「えっ……」
静かだった場所に響いた美咲の質問に、直哉は幾分戸惑う。
「誰のためにそんなに泣いたのか分からないけど、ずいぶんまぶたが腫れてるわ」
美咲は少しやつれた表情で視線だけを直哉に向けた。
ここに来ている今日今も、直哉は先を見ることができないでいた。
これからどうしていいのかわからない。
美咲に何か言葉をもらえるだろうか。
今さらながらに頼ってしまう情けない自分に少々の嫌気がさしていた。