禁じられた放課後
美咲の気持ちを感じ取っていないわけではない。
直哉は小さくため息をついて、美咲の差し出した紙を手に取った。
「これは必要なのかな」
「前科者の妻よ?夢の邪魔になるのは見えてるじゃない」
美咲はそう言って立ち上がると、後ろにいた監視官に退室を伝えた。
扉に向かう背中が、とても小さく見える。
「美咲……君は僕にとって大切な存在だった」
それなのに、それを見失ってしまうように自分は……
直哉の言葉に美咲はゆっくりと振り返った。
「私だってあなたに一瞬で惹かれたんだから。感情に時間なんて関係ない。一緒にいた期間が長いからって、相手の気持ちを思い通りにできるなんて思っていないわ。思い出だけじゃ勝てないこともあるのよね。
……ねぇ、直哉。私は全ての人が平等な幸福を手に入れられるなんて有り得ない話だと思うのよ。下にいる人がいるから、上に立てる人がいるんでしょう?ただ、下にいる人はそれ相応の幸福を見つけることが必要になるだけ。私と直哉の幸福の形は、きっと違う運命だったの」
そして美咲は何も言わない直哉に付け加えた。
「それぞれの道の先が別れていただけのことよ」
静かに扉が閉まる。
どんなに聞き分けのいい美咲でも、その本意は決して今話していたように強いものではないことくらい直哉にも分かっていた。
今頃その扉の向こうで、泣き崩れているかもしれない。