禁じられた放課後
「吉原先生っ」
追って来た涼香の声に立ち止まり、少しの間をおいてから直哉はゆっくりと振り返った。
まっすぐに見つめ合う時間は、今日までの全ての出来事を蘇らせる。
「どうした、早瀬」
優しく見下ろされれば、また抑えきれない想いが込み上げるというのに、こんな時までもその声と仕草には涼香を引き付ける全てのものが表われていた。
瞳を縁取るメガネの枠が、一層その胸の高鳴りを誘い出す。
「先生……」
呼び止めてみても、出せるような言葉は一つもない。
直哉は夢に向かって前に進んでいく。
それを邪魔することはもちろん、自分のわがままな想いなど押し付けられないのだ。
涼香は見上げていた直哉への視線を下に戻し、そこから一歩後ろに下がった。
多分自分に今できることは、こういうことなのだろう。
「先生……夢、叶えてくださいね」
微笑む涼香に直哉は小さく頷いた。
透き通るように佇むその姿は、儚くも自分よりずいぶん強く見える。
「約束するよ。必ず叶えてみせる」
出された右手に戸惑いながら、涼香も軽く頷いた。
初めて堂々と握り合わされた手のひらに、それぞれの想いが流れて行く。
互いに感じるこの温もりを、決して忘れる日など来ないだろう。
そう思えるほどに、結ばれる両手は力強かった。