禁じられた放課後
後片付けを終えたキッチンには小さな電灯がひとつ点っていた。
直哉のいない校舎に立って気付くほんの少しの淋しさ。
言葉を交わさなくても同じ場所にいるという安心感で過ごしてきた日々。
美咲は自分の気持ちにこれほどの変化が現れるとは思っていなかった。
直哉が日中どんなふうに生活しているかが気になって仕方がない。
直哉の帰りが待ち遠しくて、玄関の扉を開けてその身体を抱きしめてくれるまではどこかで不安が付きまとう。
結婚前のように、直哉を心から焦がれてしまう。
「何時になるんだろう。近くまで迎えに行こうかな」
そんなふうに感じる胸の感覚が、ほのかな恋心のようで懐かしく心地よい。
美咲は結った髪を解き少しヒールの高い靴を玄関先に出した。
壁の鏡で前髪を整える。
扉の外で聞く車の音。
それが直哉だと直感した。