禁じられた放課後
「まぁね、オレは今年三年生しか担当してませんから、吉原先生が苦労してる生徒の事は分かりませんけど。
どの生徒もうちの早瀬みたいにお利口ちゃんではないですからね〜」
その言葉に、口元から離れたカップが動きを止める。
項垂れるように座っていた直哉は、山根の心を探るように視線だけをゆっくり持ち上げた。
「通ってるでしょ、うちの早瀬。放課後になると吉原先生の教室へ」
ニヤリと笑う山根に対して、それでも直哉は冷静な態度を見せながら答える。
「英会話を極めたいそうでね。それで時々寄るだけだよ」
「へぇ、そうですか」
はいはいと頷くように山根は自分の席に戻り、直哉はカップをテーブルに置いた。
嘘な部分など何もない。
目に見えておかしな光景など何もないのだ。
ただ、放課後の教室で二人になる時のほんの少しの心の動きが、わずかな後ろめたさを感じさせるだけだった。