禁じられた放課後
はかない関係
テーブルに響く食器の音と窓の外の雨音が、朝の憂鬱を作り出す。
マグカップの横に置かれた冊子に直哉が目を向けると、向側の席で美咲がにこやかに微笑んだ。
「もう来年度の研修が発表になったのよ。直哉は担任受け持たないんだし、夏休みなら行けるでしょ?」
トーストを皿に戻し、直哉は冊子を手に取った。
毎年数名に限られるが、海外で教師をするための研修メンバーが募集される。
日本語教師を目指す美咲と直哉は、これに参加することをとりあえずの目標にしていた。
「うん……、でも来年はどうなってるか分からないよ。僕だって担任を持たないとは限らない」
ポン、と冊子を置いて、無関心気な表情で直哉は再び食事を始めた。
あんなに夢見ていた海外への移住が、どこか遠い話のように感じる。
美咲は一人はしゃぐように乗り気な自分に戸惑った。
以前ならもっと会話が盛り上がったのに、こんなにもあっさりと夢の話が止まってしまう。
確信は持てないが、きっと直哉には他に夢中になる何かができたのだろうと予感していた。