禁じられた放課後
出発を控えたバスが扉を閉めようとすると、涼香は手をかざしそのバスに乗り込んだ。
切れる息の間を、束なる髪から雫がしたる。
ガタッ、プシューッ
動き出したバスに足元がふらついた。
離せない視線の先に、直哉の姿が見える。
振り返る直哉も、また視線をとめた。
全ての景色が消えるように、ただその人しか見えない。
「先せ……」
「ねぇ、それでどこでデートするのぉ?いい歳して仕事帰りに奥さんと待ち合わせだなんてさ〜」
直哉の向こうに見える弾けるようなショートヘア。
「へ?何見てるの?あっ、早瀬先輩じゃないですか!」
立ち上がり涼香の元へ近付いてくるのは瑠未だった。
まるで心までも覗き込むように、頭から足の先までを見渡す。
「先輩、傘忘れたんですか?」
「え?あ、うん」
軽く相づちを打って、涼香はまた直哉に視線を戻した。
しかし直哉は、その視線をそらした。
……っ!どうして……?
背中を突き抜ける衝撃と共に頭が真っ白になる。
涼香は、その場に座り込んだ。
「あ、先輩。ちゃんと椅子に座ってくださいよ。ちょっと!」
放課後の時間がなくなれば無関係の二人。
伝えあった想いなど、約束さえも存在しない。
そこに神話のような物語はもう生まれないということなのだろうか。
涼香は雨か涙かも分からない濡れた顔をそのままに、それでも直哉の後ろ姿を見つめ続けるのだった。