禁じられた放課後
彷徨う気持ち
景色を歪ませるように後ろへと流れていく窓ガラスの滴は、その方向を迷うように時に同じ場所を彷徨い、やがて皆とは違う方向へと吹かれていく。
その様子が、はじき飛ばされたかのような自分に見えて、涼香の悲しみを一層深めるのだった。
深いグリーンのシートが浮き沈みをくり返す。
そのたびに記憶が戻り、涼香にあの日の出逢いを後悔させた。
「先輩降りる所、次じゃないですか?」
瑠未の言葉が遠く耳に聞こえる。
涼香は額にハンカチを軽くあて、それから停車準備で大きく揺れるバスの前方へと歩き出した。
そんな涼香を少し心配に思った瑠未が後ろを付いていく。
大きなフロントガラスの向こうに見える、見なれた公園のベンチとバス停。
最後のブレーキで思わず倒れかかった座席からは、見上げるように直哉がゆっくりと視線を合わせてきた。
ひじ掛けにつかまった右手の小指が、直哉の小指と微かに触れる。
吹き付けるようなブレーキの風音と扉のぎこちない開閉音。
涼香は、サッと手を引きカバンを持ち直した。
その上からさらに直哉の手が重なり動きを止める。
「……風邪をひかないよう気をつけなさい」
静かに囁かれたその言葉が、優し過ぎて辛さを込み上げさせた。
涼香は視線を反らし何も言わずバスを降りた。
「早瀬先輩、今日は流星群見れなくて残念ですね」
振り返った降車口で瑠未が手を振っていた。
涼香も力無く手を振り返す。
直哉は、ただ黙って窓の外の灰色雲を眺めていた。